「ケ」のsubstack
とうとうゲームの紹介文で”ステージは全て手作り(AIではない)”というような文言が謳い文句として語られる時代が来ました。手作りとは一体。世も末ですね。
インターネットがAIと広告により汚され、価値を失い続けているこれからの時代では、substackで読めるような”誰か一人の日常”の価値が高まると考えています。何かのためになるかどうかではなく、一人の人が日々向き合う事象とそのときの気持ちを定期的に記述すること、それ自体が価値になりそうです。
インターネットが汚れれば汚れるほど、「ハレとケ」の「ケ」、日常が見つけにくくなります。
多くの人の時間を奪っているtiktokがまさにそうで、掲載されているのは短くまとめられた「ハレ」、つまり非日常の情報ばかりです。「ハレ」の情報の方が、人目を惹き、いいねやPVを稼ぎ、自己承認欲求を満たしてくれます。今ではAIと広告により、その「ハレ」の映像が現実か非現実かもわからないまま時間を無駄にすり減らしていくようになります。
作られた「ハレ」ばかりの世の中で、着飾らない「ケ」を汚れなしに出し続けることが価値になると信じています。私は日常に起きたことや、読んだ本や見た映画、好きな音楽などを楽しむ生活をしたため続けます。世の中の「ハレ」づくしの情報に疲れた時に、このsubstackを読みに来てくれたら幸いです。
今週の「ケ」
新宿のBERGという思想強めのカフェ?に初めて訪れました。店内でかかっていた音楽はまさかの Caterina Barbieri( 20通目 )で好きになりました。バキバキのエレクトロミュージックをかけるカフェはここしかないかもしれません。良い体験でした。
これくらいどうでも良い情報の方が、きっとどこかでAIよりも誰かを楽しませることができるかもしれません。
今週の写真
山梨県の小菅村のホテルの部屋に飾られていた絵画の写真です。このホテルのデザインは「炭と熱」がコンセプトとなっており、インテリアから寝巻きに絵画まで、至る所が「炭=灰色、黒」と「熱=オレンジ」で統一されています。
宿のために作品作りまで依頼する徹底した作りには感銘を受けます。岡山のA&A( 71通目 )もそうでしたが、ただ芸術作品が置かれているだけではない、その場のための作品として置かれている素晴らしい宿でした。
ホテルはもちろん良かったですが、大月駅から小菅村まで乗せてくれた運転手の方との何気ない会話が一番楽しめた気がします。小菅村は、街全体で宿泊施設になることを謳っていて、一つのホテルが町自体を活性化する素晴らしい事例となっていることを直に感じることができました。
今週の本
『砂の女』 - 安部公房
『他人の顔』 - 安部公房
安部公房にどハマりしました。安部公房は、メタルギアシリーズを手がける小島秀夫監督(私が子供の頃は小島秀夫監督の手がけた『アヌビス』と『ボクらの太陽』というゲームが好きでした)が大好きと公言していたことで前から気になっていて、ようやく手を出してみたところ、面白すぎて震えました。
他人の顔も、砂の女も、現実からちょっと離れたところにある話題で、非現実との境界が曖昧になり、あり得そうであり得ない不思議な世界観に引き込まれていきます。言葉遣いが巧すぎて何度も読みたくなります。
今週の映画
他人の顔( 1964年 )- 10点中10点
上意討ち 拝領妻始末( 1967年 ) - 10点中8点
『他人の顔』は、原作に負けない面白さでした。映画という媒体に合わせてストーリーに小さな変更をいれつつも、もっとも伝えたい核心の内容を変えずに演出する力が素晴らしすぎて感動しました。監督の勅使河原宏のファンになりました。
『上意討ち 拝領妻始末』は、『他人の顔』と同じ音楽制作者の武満徹が音楽を手がけ、『他人の顔』の主人公が出演することから見てみました。始めの伏線を綺麗に最後に回収する分かりやすく楽しめる良い映画でした。冒頭のクレジットの入り方から、とにかく絵作りが美しい。
今週の音楽
武満徹 - Waltz
「他人の顔」のために描かれた挿入歌です。セリフも含めて、あまりに良すぎて繰り返し聞き続けています。わざわざドイツ語で他人の顔のための台詞がつけられ、今では世界中の楽団で演奏されている曲です。怪しい映画の雰囲気に合いすぎ。
しかし果たして、君が仮面に馴染んだのか、それとも仮面が君に馴染んだのか…
完璧な映画は、音楽から台詞、俳優まで、全てを綿密に用意することで作られることがわかります。この相性の良さは狙わないと作れない。
今週のアプリ
国内製のアプリで久々に感動する出来でした。次に予約するときは、M3デジカルスマート診察券「デジスマ」に対応する病院を選びたくなります。
世の中のアプリの大半は”あるビジネスの追加の要素”くらいのものとして扱われることが多く、あってもなくても変わらないような手を抜いたもの、ある意味”のけもの”にされているものばかりです。そのような中で、この「デジスマ」は病院で診察を受ける体験の流れの一つに綺麗に組み込まれています。予約から受診前の問診、支払いまで、あまりにもスムーズです。全ての病院に導入されることを願います。
素晴らしいデザインはインハウスのデザイナーが手掛けているようです。エムスリーが好きになりました。
書きたいことがもうひとつあったんですが、うまくまとまらなかったのでまた今度。
おやすみなさい。