奈良からお届け、53通目
札幌から始まった一週間、千葉に戻る際に大雪で飛行機が大幅に遅延して大変でした。当日になんとか移動できたから良かったものの、家に着いたのは日付が変わってからでした。週始めからハード。
アプリは「法隆寺」か「式年遷宮」か?
知人の建築家( 30通目 )が、SDレビューの中でさらに大きな賞を受賞( 表紙が知人の作品です )したので、お祝いの食事会をしました。この賞を受賞したことのある建築家は活躍する建築家が多く、受賞した知人は心から嬉しそうにしていました。
お話している中で興味深かった内容を紹介します。
建築家は、法隆寺と式年遷宮をプレゼンによってうまく使い分ける人がいる、という話を聞きました。法隆寺は長年もつように設計されて建てられ、式年遷宮は20年おきに建て替えることで長年もたせている。全く異なる真逆のアプローチですが、どちらも1300年以上も維持され続けています。
この話を利用して、「長くもつ建築の話をしたいときは法隆寺」の話を出し「アップデートの話をしたいときは式年遷宮」の話を出す建築家がいるとのことでした。たしかに便利そうな話だとは思ってしまいましたが、知人は「そのような二枚舌ではなく、自分が信じる建築の話をしなければならない」ということを話していました。
アプリはどちらかと問われたら、間違いなく「式年遷宮」方式になるでしょう。インターフェースが同じ形でも、使用するOSやデバイス、フレームワークやライブラリのアップデートが激しく、同じ仕様を維持するだけでも相当に苦労しそうです。アプリを開発していると、リファクタリング(外部から見た時の挙動は変えずに、プログラムの内部構造を整理すること)の重要性を顧客に説く難しさがありますが、そんなときは「式年遷宮」を話題に出し、訴えていくことができたら面白そうだなと建築の話を聞きながら考えていました。(一貫して片方の話をすれば、知人も許してくれることでしょう)
ちょうど出張で奈良にいますが、法隆寺に寄れそうな時間はないので寄りません。
今週の本
前回のsubstack( 52通目 )でご紹介しましたが、電通報で連載が始まりました。電通の方々には普段から良くして頂いており、改めて電通のみなさんのことを深く知るために、いくつか本を読み始めました。一冊目が掲題の本です。
150ページもない素早く読み終えられる本ですが、電通の文化を知るには最適な本でした。気配りの例のひとつを抜き出します。
見送りはタクシーが角を曲がるまでおじぎをつづける。
おじぎまではいきませんが、普段から私も見送るようにして取り組んでいる内容です。友人相手でもやることが多いです。
人を動かすのは正面の理・側面の情・背面の恐怖の3つだ
会社全体で戦略的に相手の「側面の情」に訴える、電通の強さを窺い知ることができました。文化的に私の会社に近い部分があり、「側面の情」への訴え方を会社が是として掲げる考え方は取り入れたいと思えました。
今週の写真
Google Mapに全てを委ねて移動をしていると、たまに意図しない乗り物を使うルートに導いてくれます。どう見ても自分以外全員観光客の幸せな乗り物でした。しかも2回目。(もちろん有料特急です勘弁してくれ〜)
早めに奈良に入り、奈良県立美術館に行きました。お目当ては「 不染鉄(ふせんてつ)」という芸術家の作品です。
久しぶりに撮影禁止の展示だったので、外観と図録を撮影しました。墨で黒々と塗りつぶした「春」や、禍々しさと鬱屈とした空気が漂う「廃船」(写真の図録内の絵)など、見応え抜群の画家で、奈良に来る用事があって良かったです。
晩年の作品ではボールペンやサインペンまで使うそうです。wikipediaに興味深い内容が書かれているので引用します。便利なもの、新しいものを忌み嫌わず、良いものを作るためなら手段を選ばない志を持ち続けられることは素晴らしいですね。
現代の日本画家でもまず用いない、サインペンやボールペンを使い、かつその道具なりの表現を達成できている。弟子の野田和子は思わず「先生、サインペンなんかで描いていいんですか」と尋ねると、「考えてもみてごらん。北斎がいま生きていたら、サインペンみたいに便利なものを使わないわけがないだろう」と答えたと言う。
今週の音楽
Reality - Lost Souls Of Saturn
セス・トロクスラーとフィル・モッファの二人組からなる「ロストソウルオブサターン」のアルバムです。先月末にリリースされたばかり。1曲目、2曲目がおすすめ。宇宙感漂うシンセサイザーから始まり、2曲目で入ってくるシタールの音が他にはない音の深みを作り出しています。アートワークも怪しげなテクノにぴったりです。
今週のアプリ
良いアプリの7カ条の2つめ『デバイスやOSの持つ特性を最大限活用している』を満たすアプリをご紹介します。
Star Walk 2は、 アメリカとドイツに拠点を置くヴィトテクノロジー株式会社が開発しているアプリです。この会社は昔から星座のアプリを手掛けており、アプリ業界で長い歴史を持つ数少ない古株の会社です。Apple Design Award 2010 や Google の Best of 2017 など、多くの賞を受賞しています。
このアプリの良いところは、ARで星座を見られるところです。位置情報、カメラ、スマートフォンの傾きといったスマホの機能をフル活用して、空にかざすと本来見られるであろう星座がカメラの画像に重ねて見ることができます。アプリの作りとしては正直イマイチなところもありますが、未来を感じられるプロダクトとして大きな夢を与えてくれたアプリです。
今週の映画
ブラッドシンプル( 10点中7点 )
イコライザー THE FINAL ( 10点中6点 )
コーエン兄弟作品を昔から見直しています。ブラッドシンプルは一作目。鑑賞後の作品はまあまあという印象でしたが、このサイトを見て大きく印象が変わりました。コーエン兄弟すごい、というかこのサイト運営している人はもっとすごい、他の映画も解説してほしい。
デンゼルワシントンが黒澤明の「天国と地獄」のリメイク版に出演するとのことで、デンゼルワシントン繋がりでイコライザーの最終作(3)を見ました。1と2の『その場にあるもので敵を倒して行く感』が薄く、あっさりやっつけてしまって少し残念でしたが、主人公が圧倒的に強いのは見ていて安心感があります。
おしまい!
毎回日曜深夜に書くので、眠たくて書き間違いが酷いです。前回の52通目もいくつか修正しました。おやすみなさい!
日本のソフトウェア・エンジニアリングの界隈だと、少なくとも2013年頃には「式年遷宮アーキテクチャ」というフレーズが語られるようになり、会話の中でもカジュアルに使われていますね!
参考: https://onk.hatenablog.jp/entry/2021/11/28/070728