札幌からお届け、52通目
私はいま札幌にいます。半分趣味、半分仕事で来ています。仕事の出張に自費で前泊をつけ滞在を伸ばし、札幌国際芸術祭を観てきました。札幌国際芸術祭は北海道の悪友であるさのかずやが事務局として携わっています(こんな文章も彼が書いています)。私は芸術鑑賞が大好きですが、見る側としてしか携わることがないため、事務局側に友人がいることが新鮮で、観た上で深く話を聞いてみようと思い覗いてきました。
地元出身の芸術家の作品や、展示されている場所を活かした作品が多く、幅広い作家の選び方も秀逸で、存分に芸術祭を楽しむことができました。さのくんお疲れさま。
良いアプリの7カ条
話は変わります。これまでsubstackで配信してきた良いアプリの「良さ」を言語化して紹介する企画が、電通報で連載されることになりました。普段はメディアに進んで出ることのない私ですが、この企画は自分で進んで出たいと思えた一番嬉しい出来事です。デザイン系のメディアではなく、電通報のような歴史あるビジネスメディアに出られたことが恐れ多くもあり、誇りに思います。
アプリ(またはウェブ)の品質を測るときには、ヤコブ・ニールセン氏が提唱した「ユーザビリティに関する10の原則」という原則が良く使われます。この原則を満たすと、ユーザーが使いやすいものが作れるようになります。しかし「本当にそれだけでいいのか?」と長年疑問を感じていました。上の原則はあくまでマイナスから0に近づけるだけであり、原則を満たすことで出来上がる画面は「設定アプリ」です。「設定アプリ」はiOSとAndroidの設計思想が充分に反映されており、長年研究され丁寧に整然と作られていますが、すべてのアプリが「設定アプリ」のような無味乾燥なものでいいはずがありません。楽しさや美しさ、愛着を持たせるプロダクトを目指すための言葉はないかと、長い間求め続けていました。
提携を結んでいる電通の方々との日々の会話で「山﨑さんは本当にアプリ詳しいですね。好きなアプリの話だけで企画になるのでは?」とお話頂いたことで、今回の企画が始まりました。始めは「私が良いと考えているアプリ」をダラダラ話すだけのところから始まりました。インタビュー内容を確認していて「個々のアプリの具体的な良さが、一般化されている原則のようなものがあるといいですね」と言われ、長年の課題に立ち向かうなら今しかないと思い、重い腰を上げることになりました。
インタビューの写真が半袖なのは、この7カ条ができるまでの議論に半年以上を要したためです。社員と電通のみなさんの力を借りて、この7カ条という形になり、外に出せたことに心から感謝しています。『デザインはセンスと感覚で作るもの』という一般的な人々の感覚を少しでも打ち崩し、デザインの「良さ」の言語化に苦労しているデザイナーへの一助になれれば幸いです。こうした活動を通して、世界のデザインに対する価値基準の底上げに繋がることを心より願います。
電通報の連載では、substackに書いているアプリを紹介していく予定です。substack購読者の方にはぜひ読んでいただきたいです。感想お待ちしております。
今週の写真
札幌国際芸術祭2024の会場の一つである札幌文化芸術交流センター SCARTSに展示されていた作品の写真です。ソニーのデザイナーが手がけた作品の筐体に、別のアーティストの映像が映されているところです。2022年にロンドンで展示された原型の作品には尊敬しているイギリス在住の先輩( 6通目 )が携わっており、この作品が日本に来てるうちに見られて大満足でした。
その他、特に興味深く楽しめた作品には、北海道立近代美術館で展示されていた宮田彩加さんの作品があります。ミシンに人工的なバグを起こして不規則な模様を作る作品を手がけているのですが、その下絵となる元ネタが、私が学生時代から大好きなアーティストのエルンストヘッケルの絵でした。私は、エルンストヘッケルの絵を真似して描いたり、画集をスキャンしてデバイスの壁紙に設定していたりしたくらい大好きだったので、元ネタの渋い選び方に興奮していました。
今週の本
きのとやの挑戦
札幌の企業のことを知ろうと、きのとやの本を手に取りました。
たまたま知ったきのとや、なんと社名の由来が新潟にあり(きのとまんじゅうやから来ている)、不思議なご縁を感じながら読み進めました。
オーナー社長である長沼昭夫さんの生い立ちから今までの歴史が書かれている本で、北海道企業の一つの背景を知るにはもってこいの内容でした。妻のお父さんが経営者だったことは大きいのだろうとは思いつつ、お土産用の焼き菓子という激化している市場のど真ん中で「札幌農学校クッキー」を当てにいく攻めの姿勢が素晴らしいです。母校の北大の冠をつけ、売上の数パーセントが寄付金になるという商品で、一つの商品にストーリー性を込めることの重要性を知ることができました。
せっかく札幌にいるので、本店まで行ってみました。
今週の音楽
Cwondo - Tae
クラブカルチャー好きな佐野くんらしく、芸術祭のイベントの一つにクラブイベント( リンク先 Underground Park )があったので遊びに行きました。参加アーティストのCwondoさんのアルバムを全部聴いてみて、最新のTaeというアルバムが良かったので紹介します。4枚のアルバムはリリース順に音が洗練されていき、この4枚目で完成しきった感がありました。音楽が大好きな様子が伝わるライブでより好きになり、ライブで聴けてよかったです。
今週のアプリ
ShazamはAppleのアプリです。元々はShazamという会社が開発していましたが、2018年に買収されました。
今回このアプリを選んだ理由は、そうです。「良いアプリの7カ条①:目的が一言でいえる」を満たしているアプリだからです。立ち上げた際のアプリの画面が本当に潔く、ど真ん中に録音ボタンがあるだけです。曲名を知るアプリというコンセプトを徹頭徹尾活かし続けているアプリだからこそ、Appleに買われるところまで行きました。7カ条の1条目を強く後押ししてくれる、心強いアプリの事例です。
今週の映画
バード・ボックス( 10点中1点 )
ミラーズ・クロッシング( 10点中5点 )
バードボックスは時間の無駄でした。最低。お金があっても良い映画は作れないということがよく分かる。
ミラーズクロッシングはコーエン兄弟の監督作品です。コーエン兄弟が監督した作品ではファーゴと特にノーカントリーが大好きで、昔の作品も見直し始めました。ミラーズクロッシングは初回で見ただけでは「なんで今ここでそれ言っちゃうの??」という感想に尽きてしまい、同性愛という隠れたテーマを知らないと楽しみづらい作品でした。2回目を見たら面白いのかなあ、同性愛を主題に置く「暗殺の森」を思い出した。
今週だけでも3人の方に「substack読んでいます」と言っていただき、本当に励みになります。「substackで一週間が終わったことを知ります」とまで言ってもらえたので笑、これからもストイックに配信を続けていきます。
明日も札幌、おやすみなさい!
あざした!!芸術祭どうでしたか